山下 達郎にみる人生論

kaz3yang2005-10-26

謡曲現象学 山下 達郎にみる人生論 (7年前の「礎石」への投稿原稿より)                     大谷 和明(道央フリートーク)


 私は’58(昭和33)年生まれである。不惑の40才ということになる。
 私たちは「愛知のセンチ、東京のシュガー世代」である。(これが分かる人は、通だねえ)
 だから、山下達郎に関してはほぼ同一世代ということで、世の中を見る目というのがどことなく似ている(と思っている)。ほとんど真面目、3%天の邪鬼的性質というのも、どこか自分に似ている(と思っている)。
 だから・・というわけでもないのだろうが、山下の創るアルバムには、よく社会風刺や皮肉を込めた曲が入っていた。例えば、「イエロー・キャブ」であったり、「WAR・SONG」であったり・・
 そんな山下の曲の中でも、自分でもかなり思い入れの強い曲というのがある。
 『蒼氓』(おお〜、一発で変換できたなあ・・)である。

(ここに「蒼氓」の歌詞を掲載してあったが、HP公開にあたり、削除してある)

シュガー・ベイブ時代からソロになって、ライド・オン・タイムでブレイクするまでは「シティ・ロックの旗手」のような言われかたをしていたが、私には疑問だったねえ。
ソロ・アルバムの「サーカス・タウン」は完璧主義者の山下らしくこだわりの音を求めてアメリカまでいって録音してきた。当時のフォーク全盛期の音としては、「city rock」というのが耳あたりのよい批評用語だったのだろう。
しか〜し!自称「レコード・おたく」でオールディーズ・マニアの山下としては、そんな風評はどこふく風だったのであるね。 かくいう、私もライド・オン・タイムで全国ブレイクしたときには、「いよいよ達郎も大衆化路線を歩みだしたかあ・・」なんて、一丁前に思ったものだが、考えてみると、彼の求めてきたものは、聞いて心地よい音楽の原理・原則(この辺をちょっと法則化流に)なのであった。
その後の彼の曲は、メガ・ヒットというものはないが、ジワリジワリと国民愛唱歌的な地位を築いてきたのである。
それは、「夏だ!海だ!達郎だ!」式で有名は『高気圧ガール』。「冬だ!歳末だ!ク
リスマスだ!」式の『クリスマス・イブ』。そして、しょちゅう流れてくるCMソングのおなじみの声。それに加えて、女房であるところの竹内 まりやへのプロデユースと、二つの音楽浸透力と、その音楽性を遺憾なく発揮しているところである。

そんな山下の人間性をかいま見ることができる番組が、日曜午後2時からの「サンデーング・ブック」(JACCS 提供)である。
洋楽オールデイーズ専門番組としては、NHK-FMの「ポップス・グラフィティー」と肩を並べている。(というか、まあ、おたく番組にちょっと、近いかな・・でも、なぜかしら、聴取率が高くて全国FM曲の番組ではベスト5に入っている。不思議?!)
 さて、話を『蒼氓』に戻す。
 MOONレーベル時代の山下は、曲・歌詞ともに自作することが多かった。その前は吉田美奈子・作詞のパターンが多かった。山下の詩は、ちょっとどこか現実離れしたというか、難解なフレーズが多い。

 たそがれが舞い降りる憧れや名誉はいらない。ちっぽけな街に生まれ、華やかな夢も欲しくない。

 ファンタジック・幻想的な歌詞の中の辺々には、山下の本心ともとれる詞を見る事ができる。単に金儲け主義や功名心に走っていたなら、おそらく今日の彼の音楽家としての姿勢はなかったろうと思う。それは、「アーティストなんて言い方を嫌い、あくまでミュージシャンという言い方」であったり、「先生(作曲家や作詞家など広く業界に知れるようになるとこう呼ばれる。政治家がいい例)と呼ばれるほどの馬鹿じゃなし・・」という嫌みや謙遜抜きの対人姿勢にも感じられる。(とはいえ、とにかく、いまだに全共闘時代を象徴するかのような長髪派〜今流=ロンゲ・スタイルは、かたくなだなあ・・)
 その「ほとんど誠実・3%天の邪鬼」ムードは、FMのパーソナリティでの語りに辺々と現れるリスナーへの応対に実によく現れてくる。
 そうそう、山下の下積み時代の報恩の気持ちというのも、準日本風で好きだ。
 「仁」に篤いとでもいおうか。CMソングを手がけることが多いというのはそこに原因がある。曲のフックから全曲を完成させるまでの音創りのこだわりが、永くファンを捕らえる要素がある。
 そうそう、最近CM(ビール)で流れた竹内まりやの「もう一度」なんて、15年も前のものだよなあ。曲の中に込められる「心地よさ」の普遍性というものが、うまく結実したなと思えるのが、アルバム『コージー(cozy)』であろう。
 秋には、『オン・ザ・ストリート・コーナー3』が出るらしい(というのは、ちょくちょく延期になることがあるから・・)が、この『オン・スト』シリーズは山下得意の一人アカペラ(音のかぶせ録り)であるが、これなんぞも、究極のコーラスとしての結果から生まれたものなのだろう。(ちなみに、『オン・ザ・ストリート・コーナー(1)』の初回限定プレスのアナログ盤を私は持っているのだ〜。しかし、『JOY』のアナログはなし・・)
 翻って、教員としての私への影響という点である。これはもう、「遊びは気楽に本チャンは真剣に・・」という山下の行動パターンそのままといってよいだろう。 サークル活動や原稿についてもそう。こういっちゃ悪いが、「礎石」の今回の原稿は軽いフットワーク程度。お金のかかるのは、それなりに襟を正して・・という姿勢。これはちょっと失礼かなあ。でも、どちらもそれなりに真剣なんだけど。